連載

vol.06 買い物に行く(後編)

少しばかりの下りにかかるころになると、バンカスの無線のポールが遠くに見えてくる。
目を凝らすとかすかに給水塔が見えていて、そこからだと約一時間の道のりである。放牧された牛の群れが多くなる。

バンカスは小さな町で、最近町の中央辺りに石造りの大きなマーケットの建物が、新しく建てられて、数年前に見たような道路の両側の出店の喧騒はない。

大きな物売りは皆マーケットの建物の中に入り、それこそ小さな野菜売りや主婦の手作りの笊などは、地面の上に敷いた敷物に並べて売っている。
市の立つ日はそれでもマーケットに続く道の両側には、近郊の農家の主婦が野菜などの露天を出している。

市に行く途中の広場は自家用車ならぬ自家用荷馬車の駐車場になっていて、ロバや牛が外された荷車が並び、その横でロバや牛が草を食んでいる。のんびりしたものだ。

バンカスに着くと町の西の外れにあるドゴン出身のヤクバ・カソゲのキャンプマンに拠点を置いて、買い物やバッテリーのチャージに行く。

町のキャンプマンだといっても電気は来ていない。この辺りで電気が来ているのは、近くにある給水塔の事務所だけで、そこに頼んでチャージさせてもらうことにする。

チャージするまでの四~五時間が買い物の時間だ。
テリ村の小学校に頼まれた白墨を買い、ラジオや懐中電灯用の電池を買う。

村では手に入らない野菜類、そして子供たちのお駄賃用のキャンデーを買う。子供たちにとってこのキャンデーが楽しみなのだ。これを買うのを忘れて帰ろうものなら、子供たちに恨めしそうな目で見られる事になる。

昼食はヤクバのキャンプマンで毎回決まってスパゲッティである。鶏を一羽潰して煮込んだソースをかけたもので、これだけが唯一口に合う。
しかし値段は「白人値段」だ。村に帰ってその値段を云うと「ケレマオは村の人間なのに」と人々は憤慨してくれる。ケレマオは私のドゴン名なのである。

夕方近くなって帰路に着く。その頃になると太陽も西に傾いて、あれほどギラついていた陽の光もいくらか穏やかになって、夕方の風も吹きしのぎやすくなる。帰りの荷車は買い物の荷で座る場所も狭くなる。

帰り道で見るバンデイアガラの断崖は、ギラついた昼間の景色とは違って、穏やかな夕日に照り映えて違った姿を見せている。
半砂漠の丘の上に生えたタマリンドの影が長く伸びて、枯草の上には夕日が白くひかっている。断崖も近くなってきた。
もう間もなく村が見えてくるだろう。

(了)

written by 大阪芸大名誉教授|森 淳

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