連載

vol.05 買い物に行く(前編)

テリ村に市は立たない、ちょっとした買い物にはエンデの市に行くか、カニコンボレの市の日に出かけるより方法がない。
エンデに行くにもカニコンボレに行くにしても、4キロばかりの道のりだが、エンデの市よりもカニコンボレの市の方が少しばかり大きかったし、また道もエンデに行く道よりも平坦なので、カニコンボレに行くことの方が多かった。

市はジキボンボから岩盤につけられた羊腸さながらな道を下ってきて、砂混じりの平原になったところから左手についた道をちょっとばかり行ったところ、大きなバオバブの木々の間に断崖を背にして広がっている。
広がった市の右手には女たちが地べたにトマトなどの野菜類や、くたくたに煮込んだトマト味のスパゲッティなどを、大きな洗面器いっぱいに盛り上げて売っている。石鹸やこまごました日用品などもこのあたりだ。

女たちの売り場の向こうでは山羊や羊の肉を売っていて、中には炭火を起こして肉の串刺しを焼いている店もある。
小腹が空いたときには、この串焼きを買って食べた方が、この村に一軒のキャンプマンで注文して食べるよりも便利がよい。キャンプマンだと注文してもできてくるまでが長すぎる。
一度などは注文してできてくるまで、なんと一時間半もかかって以来、決して注文することはなかった。

市の日は住民にとっては、お互いのニュースの交換の日でもある。
つまり、交換の日でもあり、また交歓の日でもあるのだ。女たちは遠い村から朝早く歩いてくる。
頭の上に売り物の野菜や料理したものを入れた壷や籠を載せて、歩いてくるのである。子どもは腰のあたりに括り付けられて、連れてこられる。
市での女たちは賑やかなものだ。到着するとすぐお喋りが始まる。

市での私の買い物といえば、トマトだとかサラダ菜などの野菜類や肉類、そして時にはテリ村では手に入らない砂糖やサラダ油などであった。暑い「日の辻」をすぎたころセリ君の驢馬車に乗って帰途につく。

市では手に入らないものや、ビデオ用のバッテリーが切れた時は、チャージする為にバンカスの町まで驢馬や牛の荷車に乗っていかなければならない。

テリ村からだと十五キロばかりの道のりで、日陰のない照り返しの強い道を、荷車の上に乗って行くことになる。
村の南方に続く道を、しばらくはタマリンドなどが日陰を作ってはいるものの、それもすぐなくなって足元の悪い砂道を登って行く。道は轍ぎりぎりについていてその中央にロバや牛の足跡が続いている。砂は踝までの深さなので、荷車から降りて歩くと疲れてしまう。揺られて行くのが一番だ。

坂を登りきるまでは、遠くバンデイアガラの断崖が、太陽に照らされて輝いて見えているのだが、坂道を登りきると見えなくなる。疎らに生える潅木と、枯れた草の上に幾筋にも放牧されている牛や山羊などの踏み跡がついている。
辺りは何もない。

(続く)


written by 大阪芸大名誉教授|森 淳

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