連載

Vol.13 ドゥルマの子供達がキベラの子供達に出会う迄1

ミリティーニ村にホームステイ

 ドゥルマの人々が暮らすミリティーニ村でのホームステイは楽しい。伝統音楽の巨匠・マテラさんのご自宅に泊めていただき、村の食事を食べ、村の人々と同じ方法で水浴びをする。夜になったら灯油ランプの明かりの下で、いろんなことを語り合う。ドゥルマ民族の歴史や、ワクワクするような昔話、生活にまつわる話題など、夜が更けるまで話は尽きない。途中でタイコを叩きはじめる人がいたら、そのまま歌と踊りがはじまる。子どもたちはそれを聞きながら、ゴザの上に寝転がって眠りはじめる。

 朝になると、お散歩をしながら村の小学校を訪ねる。ドゥルマランドはいくつものなだらかな丘が連なる丘陵地帯で、とても見晴らしがいい。学校までの道を歩くと、ピンクのシャツの制服が、緑の丘に鮮やかに続いていくのが見えて楽しい。子どもたちは、途中で木の実を摘んだり、放牧に出るヤギの群れにちょっかいを出したりしながら、にぎやかに登校する。

 ムヮムドゥドゥ小学校が近づくと、まずは校庭の大きなバオバブの木が見えてくる。その向こうには、インド洋につながる入り江が見える。全校生徒689人の半分以上には、教室がない。ケニアでは、学校建設や設備にかかる費用を政府が補助できず、父兄の負担となっている。貧しい農民がほとんどのこの地域では、十分な教室を建てる費用を捻出できずにいるのだ。質素な校舎の中で、子どもたちは地べたに座って勉強しているが、雨が降ると教室に水が流れ込んできて授業ができなくなる。丘のてっぺんにあるこの学校は、海からの強風にさらされ、雨による被害も大きく、はじめに建てた校舎は風の影響や土壌浸食を受けて崩れてしまったのだという。

 大きなバオバブの木の下は、校庭のあちこちに作られている青空教室のひとつだ。木に黒板を立てかけて、子どもたちは丸太や石を椅子にして勉強をする。村には長老や有力者が参加する学校運営委員会があり、学校の運営にかかわるすべてが討議される。新校舎を建設するためには、資材を運搬しなくてはならないが、学校までの道は雨でガタガタに崩れていた。委員会が呼びかけて、村人たちが協力しあって手作業で道路を直したが、資材を買うお金にはめどが立っていない。


長老マテラさんの提案

 ムヮムドゥドゥ小学校の1年生は140人もいるが、最高学年の8年生は21人しかいない。親としては学校に行かせたいのだが、経済困難から途中で退学してしまう子どもたちは少なくない。

 それでも、私が孤児や貧困児童のための寺子屋を運営するナイロビのスラムより、村の生活はある意味、子どもたちにとってより幸せな環境だと、村を訪問するたびにつくづく感じる。金銭的には貧しくとも、大家族やコミュニティの強いつながりの中で、子どもたちは子どもらしく、天真爛漫に育っている。畑仕事は大変だけど、収穫の喜びがあり、村には盆踊りの楽しみもある。私が接するスラムの子どもたちには、家族を亡くし、帰る故郷を失い、労働力としてスラムに連れてこられた場合も多い。子どもは、自分を取り巻く状況がいかに悲惨かということを認識できないものだから、誰に文句を言うこともできず、ただひたすら耐えている。そんな子どもたちが不憫だと、長老のマテラさんに話したことがある。私が涙ながらに語るスラムの子どもたちの話を彼は静かに聞いていた。そしてしばらくすると、彼は私に言ったのだ。

 「子どもは、世界中みな同じだ。ドゥルマには、女性は世界中すべての子どもの母親だという言葉がある。同じケニア人の子どもたちが、そんな気の毒な状況にいると聞いて私も悲しい。その子どもたちを、この村に連れてきたらいい。生活する場を無くした子どもたちを、私たちの家族で受け入れよう」

 キベラスラムの寺子屋で私たちが保護している子どもの多くは、ビクトリア湖周辺のルオ民族の出身である。エイズの被害を最も受けている地域だ。このドゥルマランドとは1000km近くも離れていて、言語や習慣もまったく違う。赤の他人の、しかも出身民族が違う子どもを家族として受け入れることは、簡単ではないだろう。しかし、私はその提案を聞いて、いろんな夢が広がっていった。ゴミの溢れるスラムで、狭苦しくて不衛生な環境しか知らない子どもたちが、この広々とした丘を散歩したら、いかにすがすがしく思うことだろう。何より、犯罪、虐待、ドラッグ、売春、レイプ、エイズなどが身近に溢れているスラムの環境を脱して、家族的な愛に包まれて安心して暮らせる場所を得られたら、それはその子どもの人生をいかに大きく変えることになるかと思う。簡単なことではないが、挑戦してみたい。

 私とミリティーニ村の人々は、手始めに、双方の子どもたちを交流させるための遠足をやろう、と意見がまとまった。次の長期休暇でそれを実行する。どんなことになるか、楽しみだ。

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画像:
上:ムヮムドゥドゥ小学校の子どもたち
下:学校へ行く道

written by 早川 千晶

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