連載
「もっとケニアを知る旅」案内人独白!!
ケニア在住の早川千晶さんが見たケニアの姿
Vol.9 神戸俊平先生と一緒に歩く旅の楽しさ
自然環境へあまりに無知なわたしたち
ケニア国立公園や保護区にサファリに行くと、「ああ、なんてすばらしい大自然なの!」と、誰もが諸手を上げて大感激・大賞賛することだろう。しかし、この素晴らしい大自然で、今現在何が起こっているかは、普通にサファリをしているだけでは知ることはできない。訪れる者を魅了し、大きな感動を与えてくれる東アフリカの大生態系は、私たち地球の、かけがえのない宝であるはずだ。それなのに欲深い人間の都合で、この自然環境や野生動物たちがいかに痛めつけられているかということを、私たちはあまりにも知らなさすぎる。道祖神のスタディ・ツアー「ケニア雑学入門」で、講師をつとめてくれるケニア在住33年の獣医師・神戸俊平先生は、自然のあり方を私たちにわかりやすく解説し、そして今まで思いもよらなかった視点から物事の真髄へと切り込んでいく道を開いてくれる。
例えば、動物がたくさんいる地域で、観光客は「豊かな自然ね」と喜ぶであろうが、実はそれが異常な状況だということを、神戸先生はその場で木々の状態や動物たちの様子などを示しながら解説してくれる。それは、周辺の土地が農場化されたり、動物の通り道に道路ができたりなどの様々な理由で、行き場を失った動物たちがある一定地域に過密化して、途方に暮れている様子なのかもしれないのだと。
自然のなかの命を知ること
今、目の前に広がっている光景の実情を、様々な要素から解説してもらうと、なぜ、どのようにしてそうなり、そしてこれからどうなっていくかということが理解できてくる。そうして再び自然に接すると、詳細な事情を知らなかったときとは別の見方や発見が生まれる。神戸先生と一緒にフィールドを歩くと、表面にはなかなか見えづらい様々な命の存在と、バランスを実感させられる。「私たちには見えないけれど、この草むらの中には、小さな鳥の巣があるかもしれないし、その鳥の巣にはタマゴがあるかもしれない。虫や小さな動物も潜んでいるかもしれない。そこに車で傍若無人に入っていくことは暴力ですよ。」
神戸先生がとつとつと呟いたあとには、ツアー参加者がサファリ・ドライバーの運転マナーについて忠告するようになった。サファリに出れば、動物を間近で見たくて少しでも近づいたり、オフロードしたくなってしまうものだ。だけどそうやって追いかけられることで、動物たちが感じるストレスや悪影響について、神戸先生が語ると、誰もオフロードをしたくなる。遠慮がちに遠くから、動物たちの群れの様子をじっくりと観察することで、深い感動や学びを得ることができるようになる。実際、そんな気持ちで大自然に接すると、ひとつの場所で車を止めて、何時間でも観察を楽しめるようになり、自分の存在と大自然との一体感をより実感できるようになる。
マサイのコミュニティでの試み
「観光」と「自然環境保全・野生動物保護」は両立できるのか。また、地域住民の生活向上と自然・動物の保護との兼ね合いはどうなのか。神戸先生はそれを長年ケニアで模索し続け、地域住民であるマサイのコミュニティへの支援、および野生動物と人間との共存を促すための試みを続けている。
あるマサイのコミュニティで、モラン(戦士)たちが大人になる儀式に参加したときのことだ。マサイ語を話す神戸先生のまわりにマサイの若者たちが集まり、神戸先生がとつとつと語る言葉に耳をすませた。この戦士たちは儀式を経て、大人として生きるための新しいグループ名を長老から授かることになるが、神戸先生は、20年前に同様の儀式に参加したときに仲間のマサイたちと同じグループ名を与えられていた。その名前を言えば、広い東アフリカのどの地域に住むマサイにも通じ、身分証明のような役割を果たす。このときの儀式に参加した20代の若者たちに、神戸先生はこう言った。
「私は君たちが生まれるよりも前からケニアに住んでいる。君たちが知らない時代のマサイを知っている。マサイは誇り高く、すばらしい知恵者だ。その誇りを失ってはならない。」
33年間も、ケニアに住み、地元の人々と密に関わってきた神戸先生の言葉は重厚で、説得力がある。ツアー中の神戸先生のレクチャーは、いくつもの引き出しを開けながら、話題が多方面に及ぶ。こんなツアーに、より多くの人々に参加してもらいたいものだ。