連載
「もっとケニアを知る旅」案内人独白!!
ケニア在住の早川千晶さんが見たケニアの姿
Vol.06 マサイコミュニティが行うエコツアーに参加する(上)
マサイ村訪問ツアーで知る現実
マサイマラ国立保護区やアンボセリ国立公園にサファリに行ったついでに、「マサイ村訪問」ツアーに参加する観光客は多い。マサイ村の「入場料」を1人20ドルづつ支払い、歓迎ソングに迎えられながら集落に入り、牛糞の家の中に入れてもらい、「火おこし」の実演を見学し、最後はビーズ装飾品などの土産品の買い物をする。
このコースに参加した人から、「でも、あれってホンモノのマサイの村ではなくて、観光客用に作られた『明治村』みたいなものなんですよね?」と聞かれて驚くことがある。これは大いなる誤解なのだ。彼らは観光客を受け入れて、ジャンプの踊りを見せたり、土産品を売るとはいえ、基本は牛やヤギを飼い、放牧をさせて、牛糞の伝統家屋を作る、マサイ的な暮らしを守って生きている「ホンモノ」である。決して『明治村』ではないのだ。
確かに、マサイと一口にいっても人によって様々な生活スタイルがある。大学教授もいれば、政治家、弁護士、ビジネスマン、会社員など、れっきとした都会人もたくさんいる。しかし、現代でも多くのマサイ人は、サバンナで牧畜生活を送り、伝統を守って生活している。そのどれかを取って、「ホンモノのマサイ」「ニセモノのマサイ」とレッテルを貼ることができるだろうか。
むしろ、現代マサイが直面している様々な状況を深く知り、彼らがいかにして現代の激烈な社会変化の波に対応して生き抜いているかを知れば、マサイ村訪問も「明冶村」だとは決して思わなくなるだろうし、サファリで出会う野生動物たちが直面している状況も、より深く理解できるようになるはずだ。
マサイマラで訪問するマサイ村は、公園の外にある。公園の中は、人間の居住と家畜の放牧は許されていない。でもこれって、何かヘンだな?そうやって行動範囲を制限されたら、マサイの人々は困るのではないか?と疑問に思うとしたら、それはマサイを知るために喜ばしい第一歩だ。そんな何気ない疑問から、ぜひともマサイの深遠な世界に深く触れて、理解を広げて欲しい。
マサイの生業は放牧業である
マサイは農耕をせず、牛、ヤギ、羊などの家畜の飼育を生業としている。自然環境について熟知し、様々な知恵を次の世代へと伝えつづけながら生きてきた。自然の状況に応じて広範囲を移動し、猛獣や外敵から家族と家畜を守るすべを身につけ、草や木から薬を作り、環境を破壊することなく厳しい大自然で生き抜いてきた賢者たちである。彼らは強く、誇り高く、勇敢で、目を見張るほど壮麗な伝統文化を育んできた。
今では観光客のサファリ・カーの天下となっているマサイマラやアンボセリなどの公園も、もともとはマサイの人々が生きる場所だった。マサイにとって、すべての土地は天地を創造した神のものであり、個人所有すべきものではない。あるエリアで草や水がなくなりそうになったら、そこを離れて、別の場所に移動する。涸れ切った土地も、そこを離れればいずれ自然の力が回復させてくれることだろう。牛の血とミルクだけを通常食とする、無駄のないしなやかな身体は、広いサバンナを何キロでも歩くことができる。自然すなわち神の力を敬い畏れ、賞賛する。彼らは、この自然環境と一体になり、同化して生きてきたのだ。
奪われていくマサイの土地
そんなマサイたちは、この数年の間で様々な難しい問題に直面させられている。野生動物保護や自然環境保全を名目として国立公園の線引きがなされ、マサイの居住範囲は狭まった。周辺地域で暮らす農耕民族の人口は爆発的に増加し、マサイのエリアにどんどん侵食して、畑が耕された。おまけに、大資本家が買い占めした土地は大規模な農場となり、フェンスが張られ、マサイが通過することを許さない。しかも、木々が伐採され、サバンナが開墾されていくにしたがって、天候のサイクルも崩れた。雨が降るべきときに降らず、マサイも家畜も野生動物も、ひどい干ばつに悩まされるようになった。
マサイの土地を「侵略」する人々は、西洋式の規則や価値観、システムを振りかざしてやってきた。いつの間にか、神様がマサイに与えたはずの土地は、どんどん狭くなっていった。マサイは、狡猾な者たちに奪われっぱなしにならないように、西洋式の武器を身につける必要性を感じはじめたが、子供たちを学校に行かせるにはお金が必要である。家畜や人間の病気にも、かつてのような薬草は手に入らなくなり、お金を出して薬を買わなければならなくなってきた。そもそもが土地不足や自然環境の変化で、牧畜だけでは生きていけない状況に追い込められる人々も多くなった。充分な家畜を飼育できないのであれば、現金で食料を買わなければ生きていけない。
そこで、現金収入獲得のために、また、その収入によって生活条件を改善させたり、周辺地域の自然環境や野生動物を守る活動を行うために、マサイのコミュニティが独自に「エコツアー・プログラム」を展開させはじめている。
マサイの伝統文化を学び、生活の様子に触れ、マサイと一緒にサバンナやブッシュを歩いて自然と触れあう。次は、そんなマサイ・コミュニティが行うエコツアーの試みを紹介したい。
(つづく)