連載

Vol.04 村でホームステイをしてみよう

ケニアの全体像を把握するのは容易でない 

 ケニアに旅行に来た人々から、あとでよく言われることがある。

 「サファリは楽しかったけど、結局一度も現地食を食べる機会に恵まれなくて残念だった」「普通のケニアの人々と話がしてみたかった。ツアー中に出会ったケニア人は、ドライバーさんとホテルやロッジで働いている人たちだけだったから・・・・」「アフリカの、普通の村の生活を体験してみたいけど、どうやったらそんな村に行けるのでしょうか?」

 日本で講演会をしたあとで、私が学校や図書館作りをしているキベラ・スラムに行ってみたいと言われることもよくある。そんな声を聞くと私はとても嬉しくなる。動物だけじゃないアフリカに触れて欲しい!日本とケニアの人々がもっと身近になって欲しい! いつもそう思っているから日本の人々のアフリカへの興味と理解を広げていくための活動をどんどんやっていきたいと思う。

 でも、私が住むケニアという国の全体像を把握するのは、簡単そうで実はとても難しい。この国は世界の縮図のようだと思うときがある。とても多面的で、どの面に触れるかで、見えてくる世界が全然違う。

 ケニアには、さまざまな格差と違いが混在している。貧富の格差、都市と地方の違い、多民族、多言語、多宗教・・・。驚くほど多様な要素があふれているので、できるだけ多くの面に時間をかけて触れていき、自分の中でパズルを組み立てるようにだんだんと大きな絵を作り上げていくのがいいと思う。


スラムの根幹には農村の暮らしが・・・

 自分の興味のポイントがはっきりとしている人でも、できる限りそれ以外の面にも触れたほうが、かえってそのポイントそのものがもっと理解できるようになると思う。例えば、動物に興味がある人は、野生動物が生息している地域で生きている人々の文化や生活の様子を知ったり、ケニア政府がどのような政策を推進しているかを知ることで、野性動物を取り巻く状況がより深くわかってくるだろう。民族文化に興味がある人は、彼らが生きる自然環境や、たどってきた歴史を学ぶことで、その文化が育まれてきた背景を知ることになるだろう。

 そこで「キベラ・スラムを訪問したい。学校の子供達に会いたい」という人々には「それはよかった。でも、ただスラムに行ってみるだけじゃ何もわからないので、まずは農村のホームステイ体験をお勧めします」とお話している。

 スラムは、地方で生きていくのが困難になって都会に出稼ぎに来た人々が寄せ集まった町なので、ケニアのありとあらゆる民族が混ざりあって暮らしている。彼らには元々のルーツになる田舎の暮らしが背後にあり、スラムの中でもいくつもの村社会を作り上げている。スラムを訪問して少しでも何かを理解したいと思うのであれば、まずはケニアの人々の基本になっている田舎での暮らしを知ることは、とても重要だ。

 ケニアの民族の中で二つの大きな流れである農耕民と牧畜民では、生きる自然環境に大きな違いがあるし、それによって発達した生活の形も全然違う。

 農耕民と牧畜民の両方の暮らしを体験してみると良いと思う。それぞれの代表的民族ともいえるキクユ人(農耕民)とマサイ人(牧畜民)の両方でホームステイを体験することを、まずはお勧めする。


ホームステイ先のンゴリバ村のこと 

 私がご案内する「ケニア雑学入門」ツアーも、キクユの村でのホームステイからはじまる。ここはンゴリバ村といって、ナイロビから車で2時間ほどのところにある。私の夫ジョンの実家がある。ほとんどの村人が小さな畑を耕して素朴な暮らしを送っている農村であるが、この村の歴史はなかなか面白い。

 実はここはキクユ農民の開拓村なのだ。ケニアは長く激しい独立闘争の末、1963年に独立したが、その後、植民地時代に土地を奪われた農民や、貧困状態にあるスラム生活者などに対し、ケニアの各所に土地を無料もしくは安価で提供し、開拓農民として送り込むという政策があった。

 私の夫のジョンの父親は、もともとはケニヤ山麓のムランガの出身であるが、他の多くのキクユ人と同じく、土地不足に悩まされていたため、開拓移民に応募したのだ。現在のンゴリバ村に50世帯が移り住んだのは、1968年のことだという。各自7エーカー前後の土地を渡されたが、そこは岩がゴツゴツしている半乾燥地で、およそ農業には不向きな土地だった。そんな痩せた土地を農民たちは必死で開墾し、現在では約1500人の農民がンゴリバ村に住んでいる。

 私の夫はナイロビで働いているが、ンゴリバ村の実家には母と弟一家が住んでいる。父は15年前に他界した。母は2頭の牛と5頭のヤギ、50羽ほどのニワトリを飼育しながら、トウモロコシやスクマ(ケニヤの代表的野菜)、キャベツなどの畑を作り、自給自足型の生活を送っている。母が牛の乳を搾って作ってくれるチャイは、とびっきりおいしい。煮炊きをするための炭も、自分の畑で焼いている。電気、水道のない暮らしだが、夜になると満天の星空を楽しむことができる。村にひとつだけある小学校を訪問すると、約500人の生徒たちが歓声をあげて大歓迎してくれる。

 このンゴリバ村を訪問したお客さんの中から、ホームステイをきっかけにしてとても楽しい交流がはじまった。その話は次回で紹介しよう。

written by 早川 千晶

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