連載

vol.04 伝統社会を訪ねる旅

東アフリカには素晴らしい伝統音楽を持つ民族が多数存在している。
その中でも、ケニアの沿岸地方に居住するミジケンダ・グループに属する9つの民族は、伝統文化を守り続けて暮らしており、今もなお、村では病気治療や慰霊、神との交信などのためにタイコが叩かれ、生活と音楽は深くつながりあっている。


キチュワテンボのドゥルマ伝統音楽をCD化

私はミジケンダ・グループのひとつであるドゥルマ民族の人々と親しくさせていただいており、このほど彼らのコミュニティを活性化させるための活動を、ドゥルマの長老でソゴラ(タイコ名人)でもあるマテラ・マサイ氏と、日本人ミュージシャン大西匡哉との3人の共同作業で開始した。

まずは、奥地の村々で埋もれている素晴らしい伝統音楽と音楽家たちを発掘し、レコーディングしてCDを制作し、その販売収益で彼らの生活条件を改善させるためのプロジェクトをスタートさせた。

これがとても楽しい作業で、私たちはこの数ヶ月の間、録音機材と電源確保のソーラーパネルを抱えて、奥地の村々を旅して回った。
最終的には200名以上の伝統音楽家たちがレコーディングに参加し、ついにCDが完成。
この6月に、ケニア全国で発売となる。ケニア人自身が、自らの伝統文化に対する価値を認識していないような世相があるから、まずはケニア人たちにぶつけてみたいと思っている。

ケニアの新聞やテレビが興味を持ち、レコーディング現場に取材にきた。
村の広場を埋め尽くすほどの伝統音楽家たちが、大変な迫力で次から次に様々な種類の音楽を演奏する様子を、ケニア人記者は目を丸くして眺めていた。


人が生きる上で大切なことは何か?

私自身が現代の日本人として思うことは、人間が生きていく上で伝統や文化的バックグラウンドといった精神的支柱がいかに大切かということだ。
今を生きる日本人は、私も含めて多くの人々がその喪失感を何らかの形で感じた経験があるのではないだろうか。

私は、長いアフリカ暮らしの中で、深い関わりを持つようになったマサイとドゥルマの長老たちから、様々な大切な学びを受け続けてきている。
アフリカに出会う前の私は、日本の生活の中でなんともいえぬ虚無感や疑問を抱いてきた。自分はなぜ生きているのかということすらわからなくなり、自分の精神のよりどころとなるものを求めて長い旅に出て、その流れの中でアフリカに出会った。

私は、「生きる」という基本的なことをアフリカで学んだと思っている。

最近、マサイの長老と話をしているときに、「人間が生きる上で最も大切なこととは何でしょうか」と尋ねたところ、彼は一瞬の迷いなく「リスペクト(尊敬)とモラル(道徳)だ」と即答した。
リスペクトとモラルが生きている社会。それが本当の意味で、今の地球上にどれだけ存在していることだろう?

今もなお、強い伝統をもとに生き続けている社会は、たまらなく魅力的である。
私は、彼らの村に長期で滞在するとき、何度も深い安堵感と充足感に満たされて、魂の奥底から幸福だと思う瞬間がある。

彼らの暮らしは電気や水道など便利なものは何もなく、表面的には貧しく見えるだろうが、コミュニティの強いつながりの中で「リスペクトとモラル」をもとに互いに支えあいながら人々が生きる姿は、理屈ぬきに美しいと私は思う。

夜になると、焚き火を囲んで長老が子供たちに語りかける姿は、まるでおとぎ話の一コマのように心温まる。


伝統文化を学ぶスタディ・ツアー

しかし、そんな彼らのささやかな暮らしは、現代社会の荒波の中で圧迫を受け、様々な形で不利益をこうむることが多々ある。
経済的発展や開発を何よりも重視する利益追求型の社会は、このように美しくも優しい社会を次々と蹴落とし、蹂躙しながら膨れ上がってきたのだ。

アフリカで今日まで生き続けてきた伝統社会とてその例外ではなく、どのコミュニティも難しい過渡期に直面しているといえる。

そこで、私は「ケニア人ですら見たことのない」伝統音楽が生活の中で生き生きと息づいている様子を、アフリカ理解の一環としてぜひ日本の人々にも体験してもらいたいと思い、「伝統文化」に焦点をあてたスタディ・ツアーを企画した。(※1)

これにはぜひ、多くの人々に参加していただきたいと思っている。

このスタディ・ツアーでは、ケニアのマサイとドゥルマという2つの民族の村を訪ね、それぞれの文化と生活を体験させていただきながら、現代社会の中で彼らが直面する問題についても知り、さらに、より良い未来を作っていくために彼らが行っている試みに触れるプログラムを組んだ。

参加者がそれぞれに、これからの時代をいかに生きるかということを考えていくための、ひとつのきっかけとなれば幸いである。

written by 早川 千晶

※1
「ケニアの民族と伝統文化に触れる旅10日間」06/07/22催行、次回は来春予定

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