連載
ソウェト・ウォッチング
ヨハネスブルグ駐在員によるソウェトエッセイ
vol.05 ソウェトでの選挙風景から
▽ 選挙人の登録というプロセス
去る2004月14日(2004年)、国会議員・州議会議員選出の選挙が行われました。
アパルトヘイトが終わってから10年経った第3回目の民主主義選挙は、どこかの国と同様、若者の関心が低く、昨年から政府は選挙人登録をするよう、何回も何回も呼びかけていましたが、私の知り合いの若者も始めて選挙権が得られたのに「自分の力(一票)ではどうせ国を変えられないし」と登録もしていませんでした。
南アフリカでは住民登録自体が無いようなものなので、選挙権がある人はIDブックを持参して役所で事前に選挙人名簿に登録をし、IDカードにバー・コードのステッカーを貼ってもらい、投票時にそのバー・コードで投票をします。
知り合いの一人は、昨年、選挙人登録のためにスクウォッター・キャンプ(不法居住者の住居地区)を廻って、誰が住んでいるのかを調べるアルバイトをやっていました。
IDカードをチェックして、バー・コードを貼っていました。これによって「居住者である証明ができ、公共サービスが受けられるよ」、という宣伝をして票を集めようという与党の思惑もあったのでしょう。
政府が進めている復興開発計画(RDP)によるRDPハウスという家を優先的に貰うためにも、不法居住地区で合法(登録済み)になる必要もあるので、そういったサービスを受けたいとか、政府のお使いの人が来てくれたから、ま〜いっかという感じで登録していた人も多くいるでしょう。
選挙前にはIFP(インカタ自由党)が強いクワズール・ナタールでIFPらしきグループがANC(与党)メンバーを襲って死者が出る事件が2回ほどありましたが、そういう事件も以前よりはずっと減って、概ね平穏な選挙戦というところでした。
▽ 選挙アルバイトという失業対策
選挙前日は投票所に行けない身障者などを対象に「特別投票」(スペシャル・ヴート)という家庭訪問があり、太り過ぎで、投票所で並べない友人は、ほぼ身障者扱いで在宅投票に来てもらってました。
投票率アップのためにはそういうサービスもしないとならないのですね。
スクウォッター・キャンプには、役所の出張所や学校はほとんど無く、投票所が足らないために、テント張りの仮設投票所を何ヶ所も設けていました。
この選挙では、無職の人々約20万人が、この5年に一度だけの選挙の手伝いのアルバイトをやったようです。これに参加した友人に聞いたらアルバイト代は1日R225×3日(当日・前日・前前日)=R675で、身障者の生活保護1ヶ月分=R700に近い収入となります。
この料金はホリデイイン・ガーデンコート・サントンシティーやローズバンク・ホテルの1人部屋1泊朝食つきのラック・レートよりもずっと低いものです。
投票日の4月14日は7時から投票所が開き、投票が始まりました。
選挙で休日になったために、投票所に行くのが午後からの人も多く、ソウェトでは500人以上の行列ができた投票所があるとニュースで言っていました。
テンビサ隣のスクゥオッター・キャンプ(ウィニー・マンデラ キャンプ)の仮設投票所の手伝いをした友人は、朝5時頃家を出て投票所に向かい、6時から投票が始まり、投票終了が結局真夜中の12時近くになり、それから片付け(仮設投票所の撤収)をし、投票箱を近くの役所の出張所に運んで開票。作業が終わったのは朝5時ごろ。
24時間近い労働でR225でも、有り難い収入だったのではないでしょうか。
▽ 選挙結果の雑感
私は選挙権も無いし選挙見物の観光客が日本から来るわけも無かったので、飲物はでるが食事は自前でアルバイトをしている友人に食料を差し入れがてら、見物に行きましたが約200人が和やかに並んで順番を待っていました。
IFPが強いクワズール・ナタールでANC(アフリカ民族会議)が勝利するために、共産党&ANCシンパの知り合いは、ヨハネスブルグからナタールにグループで行って選挙が終わるまで活動して来たそうで、ANCが勝利した選挙後にソウェト(SOWETO)に戻って来て、金も無いのに酒盛りをしたがっていたので、ビール2本を奢ったら、お前もANCの勝利を喜んでくれるのかって大喜びしていました。
ある黒人居住区の投票所では4千数百人のうち、20数人がIFPに投票し、残りは全て与党ANCで、他の政党への票は無かったとか。
民主主義10年を迎えてもまだ、アパルトヘイトの後遺症からまだ脱出できてはおらず、与党ANCがRDP(復興開発計画)で家を供給したり、各種の生活保護をやったりと、生活困窮者の救済を行っていますが、それに絡んだ腐敗や職が足らないことへの不満と、ANCへの不満も多く聞きます。
知り合いでもANCへの不満を選挙前に言っていても、ANC投票したと言っていましたし、選挙が終わってANCが圧勝した今もANCへの不満を言っています。
いまだ多数の黒人層はアパルトヘイトへの逆行を恐れており、結果としては与党ANCの絶対優勢に終わりました。
野党が与党批判を繰り広げても、政策により政党を選択するのではなく、アイデンティティ(民族)による選択という、いまだ発展途上の民主主義ではありますが、アパルトヘイトよりは民主的というところでしょう。